大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本家庭裁判所 昭和40年(家)29号 審判

国籍 カナダ 住所 カナダ国アルバータ州

申立人 山本正男(仮名) 外一名

本籍 並びに住所 熊本市

未成年者 正田正(仮名)

主文

申立人等が未成年者を養子とすることを許可する。

理由

申立人等の出生証明書、同結婚証明書、当庁家庭裁判所調査官山口光雄の調査並びに未成年者の親権者父正田貞三に対する審問の結果を綜合すると、申立人山本正男は一九二七年五月六日カナダ国ブリティッシュ・コロンビヤ州○○において、山本良子は一九二五年一一月一五日、同州ミッション市においてそれぞれ出生し、一九五四年アルバータ州レスブリッジ市において結婚し、現にレスブリッジ市に住宅を構え、経済的にも安定した生活を送つているが、結婚以来十年を経過しても子供がないところから日本に在る血縁者の中より養子を求めているうち、申立人正男の遠縁(七親等)にあたる未成年者が、その父母の離婚により祖父母に養育されていることがわかり、申立人良子の叔母方の世話で約一年間にわたり交渉の結果縁組の話が纒つたこと、未成年者の親権者である正田貞三も未成年者と後妻との関係及び経済上その他の事情から、その養子縁組に心から承諾の意を表していることが認められる。

そうすると本件養子縁組はカナダに居住しカナダに国籍を有する申立人等と日本に居住する日本人である未成年者との間における所謂渉外的縁組であるから、法例第一九条第一項によりその要件につき養親たるべき申立人等に対してはカナダ国アルバータ州法が、養子たるべき未成年者に対しては日本民法がそれぞれ適用せらるべきところ、カナダ国アルバータ州法における渉外養子縁組に関する国際私法について、同州法務長官代理の日本領事に対する回答書によれば、一九五五年アルバータ改正法律第三九章、児童福祉法第二部八八節に「如何なるアルバータ以外の州での法律に基いてなされた養子縁組も、この法律に従つてなされた養子縁組と同様の効力を有する」旨の規定に基き、アルバータ州はアルバータ以外の土地でなされた養子縁組について、たとえそれが外国の法律に従つてなされたものであつても、その養子縁組の効力を承認さるべきものとされ、本件の事例のような場合日本において、日本の法律に従つて養子縁組を行う場合にも、その養子縁組はアルバータの法律でも承認されることが認められる。即ち養子又は養親の住所のある国の法廷が養子決定の管轄権を有し、その何れかの国でその国の法律に従つて行われた養子縁組が渉外的効力を有するものと解されるから、本件養子縁組については法例第二九条の反致が成立し、アルバータ州法の養子縁組に関する法律を顧慮する迄もなく専ら日本民法に従つて縁組を行うことができることになる。

そうすると本件養子縁組は養親、養子双方につきその要件を具備しており、しかも調査の結果によれば未成年者の福祉のために相当であると認められるので、これを許可することとする。

なお前記回答書によれば「日本の裁判所の発した養子縁組決定の保証づきの謄本がアルバータ州の戸籍吏に届けられた上で、戸籍吏は裁判所の決定に従つて今や養子縁組をしようとしている未成年者の名前を変更するだろう」(家庭局編注 Upon the receipt by the Registrar of Vital Statistics for the Province of Alberta of a certified copy of an Adoption Order given by a Japanese Court, the Registrar would change the name of the child now adopted to comply with the Court Order.)ということである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 堀部健二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例